大正十五年九月一日 第二巻第九号
編輯落葉籠
(前略)
△北海道日高国沙流郡平取村のアイヌ族違星北斗氏から左のやうな短歌を寄せられた。
沙流川のせゝらぎつゝむあつ霰夏なほ寒し平取コタン。
今朝などは涼しどころか寒いなり自炊の味噌汁あつくして吸ふ
お手紙を出さねばならぬと気にしつゝ豆の畑で草取してゐる。
卑屈にもならされてゐると哀なるあきらめに似た楽を持つ人々
東京から手紙が来るとあの頃が思出すなりなつかしさよ。
酒故か無智故かはしらねども見せ物のアイヌ連れて行かるゝ。
利用されるアイヌもあり利用するシャモもあるなり哀れ世の中
本号に掲載の違星氏の書面と此歌を読む我読者諸君は果して如何の感があらうか。一視同仁の意義は吾等は努めて之れを実現せねばならぬ。(後略)
大正十五年十月一日 二巻十号
△北海道のアイヌ違星北斗氏から葉書来る。北海道全道を盛に旅行して居るそうだ。二風谷村から投函されたものだ。書中俳句二つ。
川止めになってコタン(村)に永居かな
またしても熊の話しやキビ果入る
※初出誌より。草風館版『コタン』には、編集者の手による青字部分は掲載されていない。