一升めし食へる男になったよと漁場のたよりを友に知らせる
『コタン』「私の短歌」昭和5年5月
誰一人知って呉れぬと思ったに 慰めくれる友の嬉しさ
夜もすがら久しかぶりに語らひて 友の思想の進みしを見る
淋しさを慰め合って湯の中に 浸れる友の赤い顔見る
カムチャツカの話しながら林檎一つを 二つに割りて仲よく食うた
母と子と言ひ争うて居る友は 病む事久し荒んだ心
それにまた遣瀬なからう 淋しからう 可哀さうだよ肺を病む友
おとなしい惣次郎君銅鑼声で 「カムチャツカでなあ」と語り続ける
一升飯食へる男になったよと 漁場の便り友に知らせる