キーワード歌集
歳時記
新年
『自働道話』昭和3年2月号
俺のつくこの鐘の音に新年が生れて来るか精一っぱいつく
新生の願は叶へと渾身の力を除夜の鐘にうちこむ
『新短歌時代』昭和3年2月号
俺がつくこの鐘の音に新春が生れてくるか精一ぱいにつく
新生の願ひ叶へとこんしんの力を除夜の鐘にうちこむ
春
同人誌『コタン』「コタン吟」昭和2年8月10日
ゴメ/\と声高らかに唱ふ子もうたはれる鴎も春のほこりよ
『小樽新聞』昭和3年4月8日
ボッチ舟に鰊殺しの神さまがしらみとってゐた春の天気だ
『小樽新聞』昭和3年4月10日
水けってお尻ふり/\とんでゆくケマフレにわいた春のほゝえみ
『小樽新聞』昭和3年6月5日
赤いものの魁だとばっかりにアカベの花が真赤に咲いた
雪どけた土が出た出た花咲いたシリバの春だ山のアカベだ
『コタン』「私の短歌」昭和5年5月
バッケイやアカンベの花咲きました シリパの山の雪は解けます
赤いものの魁だ! とばっかりに アカンベの花真っ赤に咲いた
夏
『医文学』大正15年9月号
今朝などは涼しどころか寒いなり自炊の味噌汁あつくして吸ふ
『小樽新聞』昭和2年10月7日
ホロベツの浜のはまなす咲き匂ひエサンの山は遠くかすんで
『小樽新聞』昭和2年12月4日
ホロベツの浜のはまなす咲き匂ふエサンの山は遠くかすんで
『志づく』昭和3年4月号
ホロベツの浜のはまなす咲き匂ひイサンの山の遠くかすめる
『コタン』「私の短歌」昭和5年5月
ホロベツの浜のハマナシ咲き匂ひ イサンの山の遠くかすめる
盆
『志づく』昭和3年4月号
静かアなコタンであるがお盆だでぼん踊りあり太鼓よくなる
秋
『自働道話』大正15年12月号
幽谷に風嘯いて黄もみじが、
苔ふんでゆく我に降りくる
むしろ戸にもみじ散りくる風ありて
杣家一っぱい煙まわりけり
秋雨の静な沢を炭釜の
白いけむりがふんわり昇る
『小樽新聞』昭和2年10月3日
伝説のベンケイナッポの磯の上にかもめないてた秋晴れの朝
暦なくとも鮭くる時を秋としたコタンの昔慕はしくなる
『新短歌時代』昭和2年11月号
暦なくとも鮭来る時を秋としたコタンの昔 思ひ出される
幽谷に風うそぶいて黄もみぢが―――苔踏んでゆく肩にふりくる
桂の葉のない梢 天を突き日高の山に冬がせまった
『小樽新聞』昭和2年11月21日
ひら/\と散ったひと葉に冷やかな秋が生きてたアコロコタン
『小樽新聞』昭和2年12月4日
暦なくとも鮭来る時を秋としたコタンの昔したはしきかな
『志づく』昭和3年4月号
桂木の葉のない梢天を突き日高の山に冬が迫った
幽谷に風嘯ぶいて黄もみぢが苔踏んで行く俺にかぶさる
暦なくとも鮭来るときを秋としたコタンの昔したはしいなあ
ひと雨は淋しさをばひと雨は寒さを呼ぶか蝦夷地の九月
ひら/\と散った一葉に冷めたァい秋が生きてたコタンの秋だ
『コタン』「私の短歌」昭和5年5月
戸むしろに紅葉散り来る風ありて 小屋いっぱいに烟まはれり
幽谷に風嘯いて黄紅葉が 苔踏んで行く我に降り来る
ひらひらと散った一葉に冷めたい 秋が生きてたコタンの夕
桂木の葉のない梢天を衝き 日高の山に冬は迫れる
一雨は淋しさを呼び一雨は 寒さ招くか蝦夷の九月は
冬
『小樽新聞』昭和3年2月27日
夕陽がまばゆくそめた石狩の雪の平野をひた走る汽車
『志づく』昭和3年4月号
増毛山海の雪頂いて海のあなたシベリア颪に突立ってゐる