鰊場     キーワード歌集


『小樽新聞』昭和3年4月8日

豊漁を告げるにゴメはやってきた人の心もやっとおちつく

久しぶりで荒い仕事する俺の手のひら一ぱいに痛いまめでた

一升めし食へる男になったよと漁場のたよりを友に知らせる

ボッチ舟に鰊殺しの神さまがしらみとってゐた春の天気だ


『志づく』昭和3年4月号

雪よ飛べ風よ刺せナニクソ北海の男児の胆を錬磨するんだ!


『コタン』「私の短歌」昭和5年5月

鰊場の雇になれば百円だ 金が欲しさに心も動く

大漁を告げようとゴメはやって来た 人の心もやっと落ち着く        註、ゴメは鴎

亦今年不漁だったら大へんだ 余市のアイヌ居られなくなる

今年こそ乗るかそるかの瀬戸際だ 鰊の漁を待ち構へてる

或時はガッチャキ薬の行商人 今鰊場の漁夫で働く

今年こそ鰊の漁もあれかしと 見渡す沖に白鴎飛ぶ

東京の話で今日も暮れにけり 春浅くして鰊待つ間を

久々に荒い仕事する俺のてのひら一ぱい痛いまめ出た

働いて空腹に食ふ飯の味 ほんとにうまい三平汁吸ふ

骨折れる仕事も慣れて一升飯 けろりと食べる俺にたまげた

一升飯食へる男になったよと 漁場の便り友に知らせる

此の頃の私の元気見てお呉れ 手首つかめば少し肥えたよ

仕事から仕事追ひ行く北海の 荒くれ男俺もその一人

雪よ飛べ風よ刺せ何 北海の 男児の胆を錬るは此の時