森竹竹市の証言

   「新しい歴史が開かれる」        山川力


(前略)

 2年ほど前、白老在住の詩人、森竹竹市さんから、長文の手紙をうけとったことがある。そのなかに、戦後アイヌ史の一時期を象徴するひとつの証言がしるされている。それは、違星北斗をしのぶことばではじまる。保護法とは直接関係がないけれども、ひとまず、ここに再記する。

 ……心の友、北斗が昭和四年二十九才の若さで世を去ってすでに三十九年、しかし、今日いまだにその意思がむくいられず、アイヌとコタンの名が、いや本当のアイヌまでも、ほしいままに、観光に利用されている現状を、彼が生きていたなら、どんなにか嘆き悲しむことでしょう。

  聴けウタリー アイヌの中からアイヌをば毒する者が出てもよいのか

  シャモと云ふ小さな殻に化石した優越感でアイヌ見にくる

  このように北斗は、聴けウタリー、と同族につよく呼びかけて、……さらにシャモへ心からの怒りをぶちまけたのです。今それがどれほど変ったでしょうか。風雲百年、いや何百年前の昔から、人権を剥奪され、故なき差別と軽侮に悲憤の涙を流して、先人の苦悩を、現代の若いウタリーにつよく訴えたいのです。

 若かりし違星北斗なきあとの四十一年という年月も、けっきょくは、ゼロにひとしい。同じくりごとをいわねばならないような現実が、まだつづいている。人種と人種とのあいだのこの断絶をおもわずにはいられない。

(後略)


※『コタンの痕跡』(旭川人権擁護委員連合会)より