山中峯太郎『コタンの娘』前書きより
この本は、かうして書いた
『世界聖典全集』を出版した松宮春一郎さんの名刺を持って、顔の黒い精悍な感じのする青年が、私をたづねて来た。松宮さんの名刺に、「アイヌの秀才青年ヰボシ君を紹介します。よろしくお話し下さい。」と、書かれてゐた。
ヰボシ君と私は、その後、かなり親しくなった。アイヌ民族の事情について、さまざまな話をヰボシ君が聞かせてくれた。その話を材料にして私は「民族」を書いた。しかし出版すると発売禁止になった。今度それを書き改め、前には書けなかつたことを、思ふとほりに書きたしたので、名まへも改めたのである。
※『コタンの娘』(新々社、昭和22年)より