故人の霊に   

              宗近真澄


 北斗君は情熱の人であった。

 意気の人であった。

 後藤先生と初対面の時の話

 君は例に依り熱をこめて

 アイヌ民族の衰退を嘆き

 自分の抱負を述べた。

 すると先生は感謝された。

 『有り難う……』

 先生の此のお言葉は

 電気の様に違星君を打った。

 此の一語は永久に君を

 先生に結びつけたのだ。

 君が窮乏を忍んで

 あの曠野をかけ巡って

 遂に同民族の為に

 一命をさへ抛ったのも

 先生の此の一語に

 感激したからであった。

 『お忙しい先生に

 御心配かけては済まぬから

 病気であるとは決して

 話して呉れぬ様……』

 君が亡くなる前の手紙に

 こんな文句が見えるのも

 聖なる御事業の為に

 お忙しい先生を

 君はよく知って居たからだ。

 本当に尊敬して居たからだ。

 君の死をお知らせした時の

 先生のあの悲痛なお顔は

 今でもよく記憶して居る。

 先生は君を愛惜された。

 そして私の言を容れられ

 君の遺稿を整理する様

 お云いつけになったのだ。

 北斗君! あの世の北斗君!

 ほんたうに喜んで下さい。

 君の遺稿が出版されます。

 生前君があれ程までに

 尊敬して居た先生に依って。

  (五・三・一三)