岩崎吉勝の短歌

初版『コタン』 「跋」より


アイヌてふ誇りに生きてウタリーを
励ます愛のをたけび高き

いかに君コタンを慕ふ熱情や
湧きてあふれて涙の泉

滅びゆくコタンなつかしみ空拳に
さゝへんとする君しかなしも

シヤモ達の米屋の符号それと同じ
シロシより出でしイボシ家の君

チガヒボシ氏をかたどるシロシより
出でしといへる君が姓かな

イボシてふ奇しきみ姓たづぬれば
尊み秘むるシロシのなまり

命こめて祈りに来にけるウタリーの
目覚めはおろか卑下のシヤモ化さ

強き祖先アイヌの名こそ誇らめと
若き血燃ゆるイボシ家の北斗

涙なしに聴くべき言かせめてもと
不逞アイヌの出でぬをほこれる

血を吐きてたふれし君がおくつきに
装成りし遺稿手向けん


※84年版『コタン』「くさのかぜ」より