十人一評

新短歌時代 昭和三年七月号


(前略)

違星北斗

 うらゝかな陽のさす路に子供らとあそびほうける不具の子がある(石川幸吉)

 不具の子。不具の子。もうそれだけで冷いかんじです。偏見に陥り易く、またともすれば一人ぽっちで淋しく遊ぶ…誠に可愛想ではありませんか。けれども此処に遊びほうけてる不具の子は今幸福に酔ふてゐる。外の子供等よりどんなにか嬉しさを強められてゐることでせう。平和の境が眼に見えて嬉しい。然し夢中になって遊んでる子供達の中不具の子がゐなかったらさほど気にもとまらないだらう。それから亦不具の子がゐても仲よくたのしそうに遊んで居さへすればそれでいい……やうなものゝ其処になんとなしに心ひかれるいた/\しさを感じるものは何か?うるほひのある情操の所産はするどい。歌はもとより立派であるが歌としてよりことがらの方がはるかに勝れてゐるのではないでせうか。

(中略)

加藤和義

 酒のめばシヤモもアイヌも同じたてアイヌのメノコ嗤ってゐます(違星北斗)

 
幼稚な文字の配列のゆゑか心にひしと強くひゞかないものがあるのが惜しい。作者に問ふメノコは一般にアイヌの女といふ意味であるようにきくがこの場合は全くの蛇足ではあるまいかメノコだけで好い。恐らく語呂のための窮策であらうがしかし日本語でもふるく(ヲノコ)男子に対するメノコ(女子)―これはヲミナともいふが―といふ言葉があるのでその意味で作者が用ひたとするなら許るすべきである。

(後略)


※新短歌時代 昭和三年七月号