貧困 キーワード歌集
『新短歌時代』昭和3年2月号
高利貸の冷い言葉が耳そこに残ってるのでねむられない夜
『小樽新聞』昭和3年5月12日
これだけの米のあるうちこの病気全快せねばならないんだが
『新短歌時代』昭和3年6月号
あばら家に風吹きこめばごみほこりたつその中に病んで寝てゐる
『小樽新聞』昭和3年12月30日
あばら家に風吹き込めばごみほこり立つその中に病んで寝てゐる
『コタン』「私の短歌」昭和5年5月
楽んで家に帰れば淋しさが 漲って居る貧乏な為だ
めっきりと寒くなってもシャツはない 薄着の俺は又も風邪ひく
炭もなく石油さへなく米もなく なって了ったが仕事とてない
食ふ物も金もないのにくよくよするな 俺の心はのん気なものだ
鰊場の雇になれば百円だ 金が欲しさに心も動く
俺でなきゃ金にもならず名誉にも ならぬ仕事を誰がやらうか
「アイヌ研究したら金になるか」と聞く人に 「金になるよ」とよく云ってやった
金儲けでなくては何もしないものと きめてる人は俺を咎める
よっぽどの馬鹿でもなけりゃ歌なんか 詠まない様な心持不図する
何事か大きな仕事ありゃいゝな 淋しい事を忘れる様な
金ためたたゞそれだけの人間を感心しているコタンの人々
生産的仕事が俺にあって欲しい 徒食するのは恥しいから
葉書きさへ買ふ金なくて本意ならず ご無沙汰をする俺の貧しさ
無くなったインクの瓶に水入れて 使って居るよ少し淡いが
秋の夜の雨もる音に目をさまし寝床片寄せ樽を置きけり
貧乏を芝居の様に思ったり 病気を歌に詠んで忘れる