はまなし涼し


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 コタン……なんといふ、やさしいひゞきの言葉でせう。コタン。コタン……おゝそこには、辛辣な悪党があるでせうか。気の毒な乞食があるでせうか。いゝえ、ありません。心そのまゝの言葉と正直な行とがあるばかりです。

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 不思議……にも、世の中は「複雑で矛盾が多くてまるで支障そのもの」の様な現代でも、うつくしいものはやっぱり美しい、良いことはやっぱり善い。真理はかくれない。なんという驚異でせう。もうそれだけで沢山だ。私共はよろこんで生きられる。誰にか感謝する。もうナンニモ不平もありません。いゝものを見つけました。

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 落葉松は伸びる……力強い幹がグン/\伸びて正に天を突いてゐる。ヨイチのウタリは貧苦になやんでゐるこの頃でも、これだけは希望そのものゝやうに元気がいゝ。余市組合は黙々の中に或ものは成長してゐます。日夜故郷に祈りつゝある異郷の友よ。風の便を聞いて下さい。

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 金……がなくて二ヶ月以上かゝってやっと生れた創刊号「コタン」は違星北斗と中里凸天との二人の手に成りました。君も病人、俺も病人と云ふ様な苦しい中に本誌は一つの慰安であった。こんど第二号は達者になって金もありたい。そしてコタンにふさわしいのをどうぞ出したい。

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 はまなし……の花が咲いた。と思ふまにもう二銭銅貨大の実がついてゐる。また次から次へと遅れ咲きが芳烈な香を放ってゐる。ここは砂丘だ。はまなしの木の根は貝塚だ。先住民なぞに根をおろしてゐて涼し顔して咲きほこってゐます。(北斗)


※95年版『コタン』より