行商 キーワード歌集
『小樽新聞』昭和2年12月4日
コタンからコタンを廻るも嬉しけれ絵の旅、詩の旅、伝説の旅
『小樽新聞』昭和2年12月30日
売薬の行商人に化けてゐる俺の姿をしげ/゛\とみる
売薬はいかがでございと人のゐない峠で大きな声出してみる
田舎者の好奇心にうまく売ってゆく呼吸も少し覚えた薬屋
ガッチャキの行商薬屋のホヤ/\だ吠えてくれるなクロは良い犬
『小樽新聞』昭和3年2月27日
行商がやたらにいやな一ん日よ金のないのが気になってゝも 40
ひるめしも食はずに夜の旅もするうれない薬に声を絞って
『コタン』「私の短歌」昭和5年5月
ガッチャキの薬を売ったその金で 十一州を視察する俺
昼飯を食はずに夜も尚歩く 売れない薬で旅する辛さ
世の中に薬は多くあるものを などガッチャキの薬売るらん
ガッチャキの薬をつける術なりと 北斗の指は右に左に
売る俺も買ふ人も亦ガッチャキの 薬の色の赤き顔かな
売薬の行商人と化けて居る 俺の人相つくづくと見る
「ガッチャキの薬如何」と人の居ない 峠で大きな声だしてみる
ガッチャキの薬屋さんのホヤホヤだ 吠えて呉れるな黒はよい犬
「ガッチャキの薬如何」と門に立てば せゝら笑って断られたり
田舎者の好奇心に売って行く 呼吸もやっと慣れた此の頃
よく云へば世渡り上手になって来た 悪くは云へぬ俺の悲しさ
此の次は樺太視察に行くんだよ さう思っては海を見わたす
世の中にガッチャキ病はあるものをなどガッチャキの薬売れない
空腹を抱へて雪の峠越す 違星北斗を哀れと思ふ
「今頃は北斗は何処に居るだらう」 噂して居る人もあらうに
灰色の空に隠れた北斗星 北は何れと人は迷はん
行商がやたらにいやな今日の俺 金ない事が気にはなっても