断想録(其の五)


▽北斗式笑話二題

十一州浪人

 平凡常識曰く「長いものにまかれろ。大きなものに呑まれろ。あみだも金で光る代だ、地獄の沙汰も金次第。小の虫殺して大の虫助ける。勝てば官軍、敗ければ賊軍。事大思想の多数決等が俺の金科玉条だよ…………」
 保護色の正義曰く「成るほど…むりが通れば道理がひきこむ…」

▽北海道土産ばなしを

 原始的に粉飾して珍客にこびを売る職業アイヌの話を受売りするつけたり「アイヌは推理的能力はないネ」「熊と角力をとってゐるよ……そしてクマに食はれたりクマを喰ったりしてゐるよ」「クマはアイヌの神様の御本尊だ」「もう十年とたったらアイヌは皆んな死に絶えてしまふだらう」などゝ嘘ばっかし云ふ。ウソの方が面白いから拍手かっさいのかんげいだ。
 「アイヌの土地をワガモノにするにはわけなく出来る。ナニ酒でネごまかしてやるんです」「それからネ、アイヌは馬鹿正直だから鮭を買ふとき……初まり……テ一本づゝごまかすんだよ」と本音をはいて痛快がってゐます。――とは本当ですか。私はアイヌですが……あなたは一枚看板「日本の誇」を、人喰人種のお国へでも、忘れてお出になったのではありませんか?……


※95年版『コタン』より

※十一州浪人は北斗の別の筆名。