アイヌ (ウタリ)」 キーワード歌集



『医文学』大正15年9月1日号

酒故か無智故かはしらねども見せ物のアイヌ連れて行かるゝ。  

利用されるアイヌもあり利用するシャモもあるなり哀れ世の中


同人誌『コタン』「コタン吟」昭和2年8月10日

ウタリーの消滅(たえ)てひさしく古平(ふるびら)のコタンの遺跡(あと)に心ひかるゝ

アヌタリー(同族)の墓地でありしと云ふ山も とむらふ人なき熊笹の藪

悲しむべし今のアイヌはアイヌをば卑下しながらにシャモ化してゆく

アイヌの中に隔生遺伝のシャモの子が生れたことを喜ぶ時代

俺はたゞアイヌであると自覚して正しき道を踏めばよいのだ

アイヌは単なる日本人になるなかれ神ながらなる道にならへよ


『小樽新聞』昭和2年10月3日

アイヌッ! とただ一言が何よりの侮辱となって燃える憤怒だ 1

獰猛な面魂をよそにして弱く淋しいアイヌのこゝろ


『小樽新聞』昭和2年10月25日

シャモといふ優越感でアイヌをば感傷的に歌をよむ、やから

人間の誇は何も怖れない今ぞアイヌのこの声を聞け

俺はただ「アイヌである」と自覚して正しき道をふめばいゝのだ


『小樽新聞』昭和2年10月28日

いとせめて酒に親しむ同族にこの上ともに酒のませたい

単純な民族性を深刻にマキリで刻むアイヌの細工

開拓の功労者てふ名のかげに脅威のアイヌおのゝいてゐる

アヌタリの墓地であったといふ山もとむらふものない熊笹の藪


『小樽新聞』昭和2年11月7日

痛快に「俺はアイヌだ」と宣言し正義の前に立った確信


『小樽新聞』昭和2年11月21日

岸は埋立川には橋がかゝるのにアイヌの家がまた消えてゆく


『小樽新聞』昭和2年12月4日

俺はただアイヌであると自覚して正しき道をふめばよいのだ

かくさずに「俺はアイヌだ」と叫ぶのも正義の前に立った喜び

シャモといふ優越感でアイヌをば感傷的に歌よむやから

仕方なくあきらめるといふこゝろ哀れアイヌをなくしたこゝろ

も強いの! それはアイヌの名であった昔に恥よ、さめよ同族


『新短歌時代』昭和2年12月号

しかたなくあきらめるといふこゝろあはれアイヌを亡したこゝろ

アイヌ相手に金もうけする店だけが大きくなってコタンさびれた

強いもの! それはアイヌの名であった昔しに恥よさめよ同族

正直なアイヌをだましたシャモをこそ憫なものとゆるすこの頃

勇敢を好み悲哀を愛してたアイヌよアイヌ今どこにゐる


『北海道人』昭和2年12月号

アイヌ! と ただ一言が なによりの
侮蔑となって 燃える憤怒だ

獰猛な 面魂を よそにして
弱い淋しい アイヌの心

単純な 民族性を 深刻に
マキリで刻む アイヌの細工


『小樽新聞』昭和3年2月27日

金ためたただそれだけの先生を感心してるコタンの人だち

酔ひどれのアイヌを見れば俺ながら義憤も消えて憎しみのわく


「日記」昭和3年4月25日

キトビロを食へば肺病直ると云う
アイヌの薬草 今試食する


「志づく」昭和3年4月号

しかたなく「諦める」と云ふ心哀れアイヌを亡したこゝろ

アイヌ相手に金もうけする店だけが大きくなってコタンさびゆく

アイヌを食いものにした野蕃人あはれ内地で食いつめたシャモ

ネクタイを結ぶに伸べたその顔を鏡は俺をアイヌと云ふた

岸は埋め川には橋がかゝるともアイヌの家が朽るが痛ましい

アイヌがなぜほろびたらうと空想の夢からさめて泣いた一夜さ

アヌタリ(同族)の墓地であったと云ふ山もとむらふ人ない熊笹のやぶ

その土地のアイヌは皆死に絶えてアイヌのことをシャモにきくのか

ウタリーの絶えて久しくふるびらのコタンの遺蹟に心ひかれる

酒故か無智故かはしらないが見世物のアイヌ連れて行かれた

利用されるアイヌもあり利用するシャモもあるんだ共に憫れむ

ウッカリとアイヌの悪口云った奴きまり悪るげに云ひなほしする

これがシャモだいはんやアイヌに於てをやだまされ慣れるに於てをやだ

歓楽も悲哀もなくて只だ単に生きんが為にうよめける群

アイヌとして生きて死にたい願もてアイヌ画をかく淋しいよろこび

今時のアイヌは純でなくなった憧憬のコタンにくゆる此の頃

シャモになる前にひとまづ堂々とアイヌであれと鉄腕を振る

人間の誇は如何で枯るべき今こそアイヌの此の声をきけ

正直なアイヌだましたシャモをこそ憫れなものとゆるすこの頃

アイヌ! と只一言が何よりの侮蔑となって憤怒に燃る

開拓の功労者の名のかげに脅威のアイヌをのゝいてゐる

単純な民族性を深刻にマキリで彫るアイヌの細工

強きもの! それはアイヌの名であった昔に耻よ醒めよ同族(ウタリー)

勇敢を好み悲哀を愛してたアイヌよアイヌ今どこにゐる

俺はただアイヌであると自覚して正しい道を踏めばよいのだ

悲しむべし今のアイヌは己れをば卑下しながらにシャモ化して行く

アイヌの中に隔世遺伝のシャモの子が生れたことをよろこぶ時代

不義の子でもシャモでありたい○○子の心のそこに泣かされるなり

シャモと云ふ小さな殻で化石した優越感でアイヌ見に来る

シャモと云ふ優越感でアイヌをば感傷的に歌よむやから

アイヌは単なる日本人になるじゃない神ながらの道に出て立て

はしたないアイヌだけれど日の本に生れたことの仕合せを知る

堂々と「俺はアイヌ」とさけぶのも正義の前に立ったよろこび


『新短歌時代』昭和3年6月号発表

民族を背負って立つのは青年だ 先覚者よ起てアヌウタリクス!


『小樽新聞』昭和3年6月19日

芸術の誇りもたたず宗教の厳粛もないアイヌの見世物

白老のアイヌはまたも見世物に博覧会に行った咄! 咄!


『新短歌時代』昭和3年7月号発表

子供等にからかはれては泣いてゐるアイヌの乞食に顔をそむける

酒のめばシャモもアイヌも同じだテ愛奴のメノコ嗤ってゐます


「日記」昭和3年10月3日発表

アイヌとして使命のまゝに立つ事を
胸に描いて病気を忘れる


『コタン』「アイヌの誇り」昭和5年3月発表

朴烈や難波大助アイヌから
出なかった事せめて誇らう


『コタン』「私の短歌」昭和5年3月発表

はしたないアイヌだけれど日の本に 生れ合せた幸福を知る

滅び行くアイヌの為めに起つアイヌ 違星北斗の瞳輝く

我はたゞアイヌであると自覚して 正しき道を踏めばよいのだ

新聞でアイヌの記事を読む毎に 切に苦しき我が思かな  ※

今時のアイヌは純でなくなった 憧憬のコタンに悔ゆる此の頃

アイヌとして生きて死にたい願いもて アイヌ絵を描く淋しい心

天地に伸びよ 栄えよ 誠もて アイヌの為めに 気を挙げんかな

深々と更け行く夜半は我はしも ウタリー思ひてないてありけり ※

ほろ/\と鳴く虫の音はウタリーを思ひて泣ける我にしあらぬか ※

無自覚と祖先罵ったそのことを 済まなかったと今にして思ふ

仕方なくあきらめるんだと云ふ心 哀れアイヌを亡ぼした心

「強いもの!」それはアイヌの名であった 昔に恥ぢよ 覚めよ ウタリー

勇敢を好み悲哀を愛してた アイヌよアイヌ今何処に居る

アイヌ相手に金儲けする店だけが 大きくなってコタンさびれた

岸は埋め川には橋がかかるとも アイヌの家の朽ちるがいたまし

あゝアイヌはやっぱり恥しい民族だ 酒にうつつをぬかす其の態

泥酔のアイヌを見れば我ながら 義憤も消えて憎しみの湧く

ネクタイを結ぶと覗くその顔を 鏡はやはりアイヌと云へり

獰猛な面魂をよそにして 弱い淋しいアイヌの心

「アイヌ研究したら金になるか」と聞く人に 「金になるよ」とよく云ってやった

亦今年不漁だったら大へんだ 余市のアイヌ居られなくなる

酒故か無知な為かは知らねども 見せ物として出されるアイヌ

白老のアイヌはまたも見せ物に 博覧会へ行った 咄! 咄!!

白老は土人学校が名物で アイヌの記事の種の出どころ

芸術の誇りも持たず宗教の 厳粛もないアイヌの見せ物

見せ物に出る様なアイヌ彼らこそ 亡びるものの名によりて死ね

聴けウタリー アイヌの中からアイヌをば 毒する者が出てもよいのか

淪落の姿に今は泣いて居る アイヌ乞食にからかう子供

子供等にからかはれて泣いて居る アイヌ乞食に顔をそむける

アイヌから偉人の出ない事よりも 一人の乞食出したが恥だ

アイヌには乞食ないのが特徴だ それを出す様な世にはなったか

滅亡に瀕するアイヌ民族にせめては生きよ俺の此の歌

ウタリーは何故滅び行く空想の夢より覚めて泣いた一宵

単純な民族性を深刻に マキリもて彫るアイヌの細工

アイヌには熊と角力を取る様な 者もあるだろ数の中には

悪辣で栄えるよりは正直で亡びるアイヌ勝利者なるか

俺の前でアイヌの悪口言ひかねて どぎまぎしている態の可笑しさ

うっかりとアイヌ嘲り俺の前 きまり悪げに言ひ直しする

アイヌと云ふ新しくよい概念を 内地の人に与へたく思ふ